研究分野 Research

AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業(国内マスタープロトコル試験の実施に関する規制的、統計的、実務的課題の検討とその適正利用のためのガイドライン作成)

マスタープロトコルは複数の仮説を評価することを目的に作成する包括的プロトコルです。マスタープロトコルを用いた試験は、その目的に応じてバスケット試験、アンブレラ試験、プラットフォーム試験に分類されます。マスタープロトコル試験は、症例集積が課題となる日本において有効な医薬品開発のアプローチになると期待されているものの、国内ではマスタープロトコル試験に関する産官学の取組みや、理論・実践に関する研究は殆どありませんでした。本研究では、産官学民が協同し、国内マスタープロトコル試験のためのガイドラインを作成します。

新興・再興感染症パンデミック下のアダプティブプラットフォーム臨床試験に関する研究

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬開発のために、世界中で膨大な数の臨床試験が実施されましたが、その多くは統計的妥当性に欠き、試験結果のエビデンスレベルが規制要件を満たすものではなかったと指摘されています。また、パンデミック下では、被験薬の有効性と安全性を統計学的に十分な精度で評価することに加えて、臨床試験の計画・実施・結果公表に至るまでのスピードも非常に重要です。現在では、COVID-19の教訓を踏まえた100 Days mission 「パンデミックが宣言されてから100日以内にワクチンや治療薬を開発する」と呼ばれる国際的な目標もあります。 標準的な薬剤開発では、薬剤ごとにプラセボ(又は対照薬)と比較する2群ランダム化対照試験を実施します。このような臨床試験は、臨床試験デザインやデータ解析に用いる統計解析法が既に確立しているという利点があるものの、薬剤開発のスピードも重視されるパンデミック下では試験間で患者登録が競合し、社会全体から見れば非効率的な薬剤開発になってしまいます。 複数の被験薬を1つの共通のプラセボ又は対照薬と比較することを特徴とするアダプティブプラットフォーム試験は、この問題を解決できる新しい臨床試験デザインであり、治療薬の開発期間を大幅に短縮できると考えられています。実際、欧米諸国等では、このアダプティブプラットフォーム臨床試験を積極的に活用して、治療薬を迅速に開発することができました。他方で、アダプティブプラットフォーム臨床試験に適した試験デザインや統計解析法の研究は不十分です。本研究室では、アダプティブプラットフォーム臨床試験の試験デザインや統計解析法に関する研究を実施しています。

認知機能の長期的変化を予測するAIモデルの研究開発

政府は、認知症に対して「予防」と「共生」を両輪とした施策を推進しています。認知症予防においては、定期的な運動、健康的な食生活、社会的交流、脳トレ等の行動変容を日常生活に取り入れることが重要です。日常生活の中で、行動変容を定着させるためには、個人ごとの認知機能を予測し、“見える化”する必要があります。当分野では、2~3年の短期的な認知機能変化から、20~30年間の長期的な認知機能変化を予測するアルゴリズムを開発しています。開発したアルゴリズムを用いてMMSEと呼ばれる医学的認知機能テストの点数の長期的変化を予測するAIモデルも開発しましたHirakawa et al.. 2022, Statistics in Medicine)。

がんプレシジョン・メディシンのための臨床試験デザインと統計解析法の研究

がんレシジョン・メディシンの確立に向けて、医薬品の臨床開発の方法も転換期を迎えています。単一又は複数のがん種において、いくつかの分子マーカーとその標的治療の組み合わせを評価する複数のサブ試験を共通のプロトコルで実施する臨床試験が増加しています。このような臨床試験は「マスタープロトコル型試験」と呼ばれ、次世代の臨床試験デザインとして注目されています(平川ら,2019)。当分野では、バスケット型臨床試験のベイズ流デザイン(平川ら,2019)をはじめ、革新的臨床試験デザインについて研究開発を行っております。また、国立がん研究センター中央病院が主導している、希少がんの研究開発及びゲノム医療を推進するための産学共同プロジェクト(MASTERKEY PROJECT)にも参画しています。

医療・健康データサイエンの推進(弘前大学COI-NEXTプロジェクト)

医療・健康データサイエンスは、臨床統計学分野の新たな発展領域のひとつであると言えます。「仮説と検証(Hypothesis and Testing)」だけなく、「新たな知の発見(Signal Finding)」にも臨床統計学の考え方や手法は大いに利用できます。第1回日本オープンイノベーション大賞(内閣総理大臣賞)を受賞した弘前COIプロジェクト(http://coi.hirosaki-u.ac.jp/web)で収集された2000項目の医療・健康ビッグデータ解析をとおして、軽度認知障害(MCI)の早期発見アルゴリズムの開発等、社会実装に資する研究に取り組んでいます。

 

終了したプロジェクト

AMED医薬品・医療機器・再生医療等製品等に係るレギュラトリーサイエンスに関する研究(小規模臨床試験のためのアダプティブデザイン・ベイズ流アプローチの適正利用のための基本的考え方の策定,研究代表者:平川晃弘,2019年~2022年)

2019年7月より、医薬品・医療機器・再生医療等製品等に係るレギュラトリーサイエンスに関する研究を開始しました(https://www.amed.go.jp/koubo/06/02/0602C_00007.html)。医薬品の条件付早期承認制度や再生医療等製品の条件・期限付き早期承認制度においては、希少疾患領域においては小規模試験から高い臨床的有用性を示唆する結果が得られているかを一定の統計的精度で評価する必要があり、アダプティブデザインやベイズ流アプローチが有用な場合があります。本研究においては、アダプティブデザインやベイズ流アプローチの研究開発を行うと共に、その適正利用のための指針を策定しました。

AMED認知症等対策官民イノベーション実証基盤整備事業(認知症に対する非薬物療法のエビデンス創出に資するデータ品質一元管理センターの基盤構築と継続的研究支援のための体制整備,研究代表者:平川晃弘,2019年~2022年)

2025年には65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると予測され、2015年に政府は「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)を策定しました。AMED認知症等対策官民イノベーション実証基盤整備事業(https://www.amed.go.jp/koubo/01/04/0104C_00017.html)では、認知症の早期発見・予防・ケアに資する官民協同の研究に取り組んでいます。2019年6月より、当該事業の包括的データセンターを構築し、研究データの品質管理及びデータの二次利用に向けた体制整備を進めています。また、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターと連携し、これらの研究で得られたデータの産学データシェアリングの枠組みを検討しています。

AMED研究開発推進ネットワーク事業(臨床試験を主導する研究者の育成を含む臨床試験支援体制の構築と運用,  研究代表者:平川晃弘, 2021年)

東京医科歯科大学において、臨床試験管理センターと医療イノベーション推進センターが連携し、目標とするエビデンスレベルや出口戦略に適した臨床試験を計画・実施できる支援体制を新たに構築します。

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